本気の離職抑制の具体策とは?

前回に引き続き、離職抑制についての内容となります。今回は具体的な対策についてです。

実際によく聞く対策としては、自由裁量があると仕事の満足度が上がるとの研究結果があるにはありますが、その仕事が十分上手くできるという前提があってのことです。自由裁量にして出来栄えが基準を満たさなくなったり、納期が守れなくなったりするのでは本末転倒です。さらに語弊があるかもしれませんが、大企業に入社する人材より、中小零細企業に入社する人材の方が若干見劣りします。そういったことからあまり自信がない場合もあり、自由を与えても効果は薄いでしょう。だったら入社してから自信をつけさせる必要があります。そこで必要なのが基本的な育成となります。

育成のテーマは幾つかありますが、一番大事なのは、日常の仕事が確実にできるようにさせることです。しかし、大抵の中小零細企業での「OJT」は「聞かれたら答える以外は放置」のことを指しています。マニュアルや手順書などを整備して、座学や現場説明を充実させ、じっくり理解させ、教えたことはすべて復唱させ、その従業員が習ったことを第三者に教えられるぐらいに一気に習熟させましょう。教える側の自己満足的に「教えたこと」にするのではなく、教えられる側の「望ましい変化」が起きたことを以て、「教えたこと」と定義しましょう。つまり、相手が間違いなく実践できるようになるなどしないうちは、継続して教え続けるということです。

日常業務が確実にできるようになると、様々な離職抑制効果が生まれます。中小零細企業で働く人材の多くは褒められた経験が少なく、自己肯定感や自己効力感が概して低くなっていて、所謂「承認欲求」が強いニーズとして生まれています。日常の仕事ができるようになると、失敗してしまって周囲の人々に迷惑をかけることがなくなります。それだけでも本人が感じるストレスが減ります。仕事が分かるようになると、当日だけではなく、週単位や月単位での予定も分かるようになりますから、仕事に振り回されることも減って行きます。つまり、自分で仕事をコントロールしやすくなるのです。その上、作業人数としてカウントされるようになり、頼りにされたりアテにされたりするようになります。

■基礎的スキルの習得

日常業務を教える上で、基礎的スキルが不足していて、日常業務を教えること自体に支障が発生するかもしれません。例えば、作業を教えるために手順書を与えて説明したけれども理解しきれていなかった、指示をしたらその意味が分からず全く復唱できないなど、色々なことが起こり得ます。多くの会社では、このような場面が発生すると、本来の教育カリキュラムが維持できなくなるので、「まあ、取り敢えず、感じは分かったと思う」とか「原理は分かっただろうから、あとは自分で練習して行けば何とかなるから」などと結果を誤魔化して、教えたことにしがちです。しかし、それでは先述のような「承認されるほどのスキル状態」にはなっていません。このような場合は、あえて、そうした基礎的なスキルの教育にも挑む必要が出ます。それをやらず、なあなあの手続き的な研修のみで教えたことにしてしまうから、人材は離れて行きます。

■就労に関わる知見の習得

日常業務がスムーズにできるようになると離職抑制はかなり前進しますが、その次に教育しなくてはならないのが就労観です。つまり、働くことに関する考え方です。

ネットの記事群を見ると一目瞭然ですが、中小零細企業で働くことの現実からかけ離れた言説が溢れ返っています。例えば「アルバイトでも食べていける」、「ワーク・ライフ・バランスを大切にする」、「好きなことを仕事にすると成功する」、「拘束された時間、言われたことをしてやり過ごすのが仕事」などなどです。

実際に働き始めて、日常業務が十分にこなせず、「自尊の欲求」どころか「集団帰属の欲求」でさえ充足していない状態が少々続くと、仕事そのものの価値や働くことの価値を見下し、それが取るに足らないこととして、面白くない職場の日常を「無価値」にしようとします。分からないことはなかったことにするのが、読解力の低い人々の特徴です。分からない仕事は当然不快ですから、自分の人生の中に極力なかったことにしようと脳が機能するのです。

こうした状況が起きてしまうと、世の中に溢れる馬鹿げた情報がどんどん脳に浸透して来て、非現実的な理由による退職に至ります。就労の常識をきちんと教えておくことは、言わば離職予防の良い対策となるのです。