単純な「在庫は悪」ではない?『在庫戦略の教科書』
コロナ禍もようやく騒ぎが終息に向かいつつあるものの、コロナ禍に端を発して起きた半導体供給不足は未だ続き、多くの自動車や家電が減産となりました。この影響で同じく多くの企業が受注減と原価高騰、供給危機の三重苦に苛まれています。こうした情勢を見たとき単純に「在庫は悪」とされてきたこれまでの生産管理、在庫管理の考え方について考え直すべき時の到来を感じます。今回はその参考になるかもしれない一冊をご紹介いたします。
『在庫戦略の教科書 古谷 賢一(著)』は冒頭から実践手法の解説書ではなく経営や工場運営を担う管理者向けの書であることが書かれており、経営視点での在庫の在り方を考えさせる内容になっています。全5章からなり、1章では読解と思考の導線として「在庫の定義」を解説。2章では昨今の在庫管理を取り巻く課題の整理、3章では「攻めの在庫管理」で4章では「守りの在庫管理」の考え方が解説されています。最後の5章では在庫管理の基本的な理論や視点について述べられつつ、実務と経営戦略の融合の重要性や今後ますます進むと思われるシステム化に必要な足場固めについて解説されています。
この内2章の2.3「在庫の善悪論を経営目線で考える」では在庫の善悪双方の論が並べられつつ経営戦略と在庫管理の整合の重要性が説かれ、3章の「攻めの在庫管理」と4章の「守りの在庫管理」が続いて単純な二元論でない在庫管理の考え方が示されています。また5章の 「鬼に金棒」の小話とともにされるITシステムと強い組織能力のハイブリットの重要性の話はこの例え話の部分を読むだけでもITシステム導入の成功例、失敗例が目に浮かびます。
「強い鬼が強力な武器である金棒を持つと、さらに力が増す」
「重い金棒を振り回すだけの強い力を持たない者にとっては、金棒は強力な武器になり得ない」
自社の場合に置き換えてこれを考えたとき、どうなのか。考えさせられる非常に上手い表現です。
今回紹介した一冊は著者も大手企業出身のMBA持ち経営コンサルタントなのもあり、サプライヤー規模の企業の方々にはしっくりこない内容もあるかもしれません。しかし機動力が最大の武器である中小企業にとって中堅社員や幹部社員は「経営者の分身」であるべきです。改めて「整理された在庫の定義」や「在庫の目的・役割」「経営戦略と噛み合った在庫管理の重要性」などを中堅社員や幹部社員が読み、考えを深めるのには役立つはずではないでしょうか。