なぜ不正は起こるのか。その典型-窮地ゆえの不正-
昨年春、自動車業界に激震が走りました。みなさまもすでにご存じとは思いますが、ダイハツの安全性能確認試験での不正が発覚し、ダイハツは国土交通省から出荷停止の指示を受け、出荷と生産ともに停止に至ったのです。現在もいつ終息するのかが見えないダイハツの不正問題ですが、今回は時事のネタとして過去に起きた不正のことを交えつつ不正が起きる典型パターンを取り上げていきます。
ダイハツの不正問題について、その発生原因に公開されている第三者委員会調査報告書1では不正の当事者が相当な窮地に追い込まれ、やむなく不正に走った経過が描かれています。過度にタイトで硬直的な開発スケジュールに追いつめられ、にも拘わらず上司に相談することもできない。仕組みや体制の面でも問題は多く、人手不足で目の前の仕事をこなすのに精一杯な状況下、現場任せでブラックボックス化した職場環境となっており、「できて当たり前」の発想が強く、何か失敗があった場合は激しい𠮟責や非難をされる組織風土。それでも何とかしようとした苦肉の策が不正であった…、ということなのかもしれません。
他の事例として挙げるとビッグモーターの保険金水増し請求の不正についても似たような背景が見られます。調査報告書2によるとビッグモーターでは本来破損状況によって変わる修理代に対してその粗利に営業目標を設定し、その達成を強く求め、未達の場合は強い圧力を感じる叱責をされたり、降格などの厳しい処置がとられたりしたことが明らかになっています。結果、一方的で懲罰的な人事によって委縮した従業員らは経営陣の意向に盲従せざるを得ず、売上向上最優先の方針のもとに不正へ手を染めていったのが伺われます。
これらの事例から見てもわかるように、経営者や管理職層たちが一方的に課題の解決を現場へ押し付けてしまうと、課題が実務の範囲で解決不能に陥った時現場は不正に手を染めざるを得なくなるのです。端的にまとめれば、不正が起きるか否かは経営者や管理職層たちがどれだけ自責の念をもって仕事しているかにがかかっているのではないでしょうか。「不正防止にはガバナンスの強化が必要」などとの指摘が散見されますが、日本の企業における中小企業、特にオーナー企業の割合は全体の7割にも及びます。こうした企業では構造的にも仕組み的にも「ガバナンスの強化」などという処方箋は効かないのですから。
- 第三者委員会 調査報告書(概要版) https://www.daihatsu.com/jp/news/2023/report_1.pdf
- ビッグモーター 特別調査委員会 調査報告書https://www.bigmotor.co.jp/pdf/research-report.pdf