『仕事で「ミスをしない人」と「ミスをする人」の習慣』
・部下が使えない
現在指導担当として後輩社の面倒を見られている方、あるいは部下を持ち、そのマネジメントが仕事になっている方も読者の方々の中にはいらっしゃるでしょう。新人たちはなぜ「できて当たり前」さえできもしないのに、さもできないのが当然で、むしろできない自分たちを何とかできない上司や指導担当たちがダメなのだといわんばかりの態度なのでしょう。そして本音を言えば、少なからず後輩、あるいは部下が「使えない奴だ…」と嘆息したことがあるのではないでしょうか。今回紹介する一冊はそんなみなさまにうってつけの一冊。『仕事で「ミスをしない人」と「ミスをする人」の習慣 藤井 美保代 (著)』です。
すでにマネジメントサイドに回っているみなさまなら「何を今さら」と一笑に付す内容ながら、本書は不遜な新人たちには大いに学びの得られるはずの内容になっています。本文の表現も「できる人はこう!できない人はこんなん」といかにも新人たちのプライドをいい感じにくすぐる書かれ方。自分たちに非は一切ないと考える彼らも自分が「ミスをする人ではない!」としたいが故、みなさまが望む仕事の仕方に自ずと向かうようになるのでは。明日香出版社の書籍によくある体裁ですが、「ミスをしない人」とはどんな人物であるかが50のポイントにまとめられており、読解力に欠ける新人たちにも読み易い作りになっています。
本書を読みやすくしているのは各項の題目で問題が提起され、最後に本文とは別に隔離された箇所に解となる結論が示されていること。文章を読むことさえ厭うようなレベルの新人でも題目とその項の最後のページ書かれた結論さえ読めば何となく著者が導きたい「ミスをしない人」の人物像が読んで取れるはず。
特に50のポイントの内、30番目のポイント「ミスをしない人は気がきく仕事をし、ミスをする人は言われたことだけする」と32番目のポイント「ミスをしない人は気軽に聞ける関係を築き、ミスする人は何でも自分で抱え込む」は新人にぜひとも読ませたい2つ。ともにコミュニケーション編でのお話ですが、お題を目にするだけでも「あぁ…」とみなさまが頭を抱え込んだワンシーンが想起されるのではないでしょうか。
しかしながら過分に自信過剰な新人だと実力と自己評価が乖離しているため、本書をただ読ませるだけでは効果を得られないこともあり得ます。本当は「ミスをする人」な状態なのに「ミスをしない人」にすでになっていると思い込んでいることもあり得るということです。そこで今一歩踏み込んだ本書の利用方法として、彼ら、彼女らが失敗したり、その恐れがある場合、本書を片手に「今まさにミスする人に近いことになって見えるけど大丈夫か一緒にチェックしてみようか?」と指導する使い方をご提案します。
また、テーマアップされた示唆について書の内容だけでは正直今一歩足りない部分があるのは否定できません。広範な対象に向けての内容だけに、指導担当が新人たちの直面している課題に即して書の各項目とそれへの解法に話を置き換えてやらないと教育効果を期待するのは難しい部分がどうしてもあるのです。
自分もかつて「新人」だった人間ながら、人材育成における新人、あるいは指導を受ける側の問題点を敢えて言うなら、それは「素直さが足りない」ことにあると思います。溢れる物や情報の中から、最も自分に有益と判断されるものを取捨選択することをこれまでずっとしてきた新人たちには有難い指導さえ取捨選択の対象となっているのです。与えられることが有難いことでなく、当たり前にさえ思っている。実に恐ろしい価値観です。
そして今指導する側にいる人間ながら、自分を含め人材育成における指導担当側の人間たちの問題点を敢えて言うなら、それは「信頼関係の構築があまりにお粗末」なのかもしれません。こめかみに青筋を浮かべたり、嘆息する前に自分の指導を鵜呑みにさせられない力不足、信頼不足を顧みるべきなのでしょう。それは32番目のポイント「ミスをしない人は気軽に聞ける関係を築き、ミスする人は何でも自分で抱え込む」がそのまま指導担当側にも当てはまる話であることを意味しています。
今回ご紹介の書がこれらの問題の解決の一助となれば幸いです。今、指導担当側に立った方々もまた、読解力次第ではこの書から新たな学びや反省が得られるのではないでしょうか。