回帰的マネジメント-5『挨拶』

人材の流動化とでも言いましょうか。以前と比べて転職がごく当たり前になってきた昨今、コロナ禍の機会に中核人材の退職が相次ぎ、人手不足と人材の定着の重要性が多くの企業で重大な課題として意識されるようになってきたのを感じます。若手・新人たちを指導していくのにあたり、実はみなさまがかつて下積み時代に上司や先輩たちにさせられていたことが指導上の課題にも有効なのではないかと説くこのシリーズですが、今回は上司や先輩たちが行っていた「挨拶」の効果で人材の定着を狙うという話です。過去の回帰的マネジメントの記事でも社員との関係性構築によって定着を狙うネタを書きましたが、今回の記事もお楽しみいただければ幸いです。

多種多様な娯楽が溢れる現在。お決まりの人気番組や野球・プロレスが共通の話題だった頃も今は昔となりました。こうなってくると上司や先輩の立場にある人は、若手・新人たちとの関係性を深めようとなにがしかの話を振ってもどこか不自然だったり、むしろわざとらしい過度な関わりかけはむしろウザがられてしまうリスクさえあります。そこで『挨拶』が有効なのです。

『挨拶』とは元々仏教用語で、悟りの深さを見るためにしていた禅問答に由来するそうで、単に人と会ったに交わす儀礼的な声掛けのことではありませんでした。普段からの観察や情報収集に基づく声かけによって相手の心に迫るのが本来の『挨拶』なのです。「おいおい、無精髭が伸びてるぞ。剃る暇もないほど忙しいならちょっとは俺を頼れ」とか「最近残業が続いてるな。缶コーヒー奢ってやるからちょっと来い」といった具合に人情の機微に触れる。こうした働きかけの積み重ねが関係性を強化していき、やがて協力に若手・新人たちの定着を促すのです。

企業規模とその方の地位にもよるでしょうが、部下から「おはようございます」と声を掛けられたのに対し「うむ。」とぶっきらぼうに返すのは最悪です。承認欲求に飢えているらしい昨今の若手・新人たちには適切な『挨拶』は心を直撃するはず。かつて自分が下積みのころ、上司や先輩からどんな言葉をかけられ、どのように感じたのか思い返してみるいいかもしれません。