こんなに危ない自動車業界
現在の日本の自動車メーカーは未曾有の販売不振により生産台数が激減し、8メーカーの減産規模は合計で約220万台(軽のワゴンRでおなじみの「SUZUKI」のほぼ年間生産台数分に匹敵)、今なお悪化している。
昨年発表された2009年度3月期の業績予想では、過去最高だった連結の営業利益2兆2,703億円から一気に1,500億円の赤字に転落。08年のグループ新車販売台数が07年よりも約140万台少ない754万台に落ち込み、1950年以来の赤字となった。これはアメリカ市場に頼る収益構造と為替の急激な変化が大きな原因である。それに加えて、これまでアメリカの多少の落ち込みをカバーしていた新興国市場も減速し、ロシアでは前年同月期15%減と初のマイナスに転じ、中国も15%減となっている。
BIG3をも凌駕するトヨタ
何故、BIG3(GM・クライスラー・フォード)は公的資金を必要とするほど衰退してしまったのか?
それは、小型車よりもより利益性の高い大型車の開発・生産に注力してきたためである。旧来アメリカ人は大型の自動車を求め、それを購入してきた。しかしガソリン価格高騰の影響を受け、小型でより燃費の良い車が好まれるようになっていく。
小型車の生産を得意としてきたのは、日本の自動車メーカーだった。アメリカ国内での日本車のシェア率は少しづつ上昇し、最終的にはBIG3を脅かすようになり、特にハイブリット自動車のトヨタ『プリウス』は一時アメリカ国内では異例の6ヶ月待ちの状況となった。
2007年、トヨタは生産台数で初の世界一を勝ち取った。しかし日本国内の自動車市場は頭打ち状態で、軽自動車を除く新車の販売台数は、ここ数年減少の一途をたどっている。そんな中、日本の自動車メーカーがこぞって売上高を伸ばしているのは、海外での売上実績が好調だからに他ならない。自動車業界はまさに日本最大規模の基幹産業といえる。アメリカ相手の巨額の貿易黒字は日本経済の生命線だ。ドル安で減ったとはいえ、世界のGDP(国内総生産)の25%弱を占めるアメリカ経済。個人消費はその7割だから、アメリカの個人消費は世界経済の2割近い規模。日本経済も、アメリカの個人消費のおかげで生きていけるのだ。
景気回復とともに、住宅の担保価格が上昇した為、住宅担保ローンの借り入れ枠が拡大した。住宅担保ローンの金利は、普通の消費者ローンよりも相当低い。このローンが消費に向かい、個人ローンが累増の一途を辿り、ローン残高は、年間の個人所得に匹敵する大きさに急膨張した。
「サブプライム問題をきっかけに中産階級の個人消費は一気に冷え込み始めている。各国の貿易黒字を吸い込むアメリカ経済の7割は個人消費、日本経済へのダメージは大きい」と識者は言う。
日本の自動車業界もアメリカ向けの輸出に頼っていたため、個人消費の衰退の影響を受け、前年比30%減の水準となる。
トヨタ赤字転落の思惑
為替差損という意味では損益が増えることも理解できるが、容易に予想できる円高なので、トヨタがそれを読んでいた可能性もある。では、赤字転落の理由だが、おそらく「アメリカ自動車業界救済」「国内の派遣切り」「社員解雇」に対しての布石なのではないだろうか。
トヨタが黒字であれば、アメリカ自動車業界やアメリカ国民は日本排除の感情を爆発させかねないし、日本国内でも業績は悪化していても雇用は守らなければならない。あくまでも3月末の業績予測であり、更に赤字が増えるのかもしれないし、本当に完全な読み違いの結果による連続下方修正かもしれない。しかし、6,000億円の黒字よりは1,500億円の赤字の方が断然首切りはやりやすいし、アメリカからの風当たりが弱いというのも事実である。そこまで予測をする、したたかな企業かどうかはわからないが、世界一を守り抜くには必要なのかもしれない。真相は分からないが、結構的を射ている可能性は高いのではないか。